金融機関の株式投資における炭素フットプリント比較調査結果を発表、割当GHG排出量上位はGPIF、三菱UFJ、みずほ

 近年、投資運用による環境への影響や、投資ポートフォリオの気候変動リスクへのエクスポージャーを把握するための第一歩として、投資ポートフォリオの炭素フットプリント を測定し開示する機関投資家が世界中で増加している。この動きが生まれた背景には、 2015年パリで開催された気候変動枠組条約パリ会議(COP21)がもたらした気候変動に対する関心の高まりや、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連責任投資原則(PRI)が支援する投資ポートフォリオの炭素フットプリントの開示を求める「モントリオール・カーボン・プレッジ」、そして機関投資家に対し炭素フットプリントの開示を義務化したフランス「エネルギー転換法(Energy Transition for Green Growth Act)」などがある。

 そうした中、課題となっているのが、炭素フットプリントの測定方法の標準化である。炭素フットプリントの測定方法は現在数多く存在し、測定の際に使用できる指数も数多い状況である。また、炭素フットプリントに関して説明や報告する際に使われる用語についても発表機関により大きく異なり、比較が難しい要因にもなっている。

 このような状況を受け、炭素フットプリントの測定、そして報告方法の標準化を急務として捉えた機関投資家や金融関連企業などが、早くは COP21以前から、炭素フットプリントに関するガイドラインを発表している。2017年6月にはTCFD、2017年7月にはオランダの金融関連企業12社からなるPortfolio Carbon Accounting Financials(PCAF)、その前後でもその他のイニシアチブや調査会社から、上場企業を含む様々なアセットクラスの炭素フットプリントの測定方法に関するガイドラインが発表されている。

 しかし、金融機関の炭素フットプリントについては、未だに比較可能な形で開示されていない状況である。そこで、本報告書では、日本の主要16金融機関を対象に、国内株式ポートフォリオ(GHG排出量上位50銘柄)における炭素フットプリントを計算した。その結果、各金融機関の保有銘柄の割当GHG排出量は以下の通りとなった。

図1:各金融機関の保有銘柄の割当GHG排出量(CO2換算トン/年) ※50企業のGHG排出量及び株式保有データについては、Bloomberg及びThomson EIKONのデータベースを元に、2018年10月時点で入手可能な直近のデータを利用。

 上記結果は、資産運用額が大きいほど割当GHG排出量も多くなってしまう傾向にある。したがって、各金融機関の総資産額で補正した値は図2の通りである。以下の補正値は、厳密な意味での炭素原単位(Carbon Intensity)の値ではないが、同様の考え方に基づいて算出した数値である。

図2:各金融機関の資産額補正後のGHG排出量(CO2換算トン/10億円) ※上記データベースに加え、総資産額は各金融機関の財務諸表から入手可能な直近の値を使用。

 資産額補正後のGHG排出量を見てみると、上位はGPIF、日本生命、三井住友トラストの順になった。ただ、総資産額で補正したため、総資産の中で株式運用の比率が高い年金基金や保険会社の数値が高めに出てしまう傾向がある。また、総資産の中にはグループ傘下の運用会社の運用資産が含まれていないため、三井住友トラスト等の数値が高めに出てしまっている可能性がある。3メガバンクの中で比較すると、みずほが最も排出量が多く、三菱UFJ、三井住友の順になった。また生命保険会社で見ると、明治安田生命よりも日本生命の方が排出量が多いことが明らかとなった(第一生命と住友生命については十分な株式保有データが入手できなかった)。

 今日、PRI署名機関のアセットオーナーのうち59%が、運用会社では55%が投資ポートフォリオの炭素フットプリントを測定しており 、今後もその数は増加することが見込まれている。「モントリオール・カーボン・プレッジ」に署名している日本の機関は依然少数であるが、様々な国際イニシアチブに後押しされ、炭素フットプリント開示要請の波が日本により強く押し寄せることが今後予想される。


本調査結果を踏まえ、Fair Finance Guide Japanは、各金融機関に対して、以下の点を提言する:

1.各金融機関は、統一した方法論に基づいて投融資ポートフォリオの炭素フットプリントを比較可能な形で開示するべきである。

2.投融資対象については、本レポートでは便宜上、国内株式50銘柄に限定したが、保有株式の全銘柄を対象とするべきである。また、株式のみではなく、債券や融資についても開示の対象とするべきである。

3.各金融機関には、投資先企業への働きかけや銘柄の入れ替え等を通じて自身の投融資ポートフォリオの炭素フットプリントを削減する取り組みを進めるべきである。

詳しいレポートは下記リンクからダウンロードしてください。

Fair Finance Guide第9回ケース調査報告書『金融機関による気候変動インパクトの「見える化」~日本の金融機関の国内株式ポートフォリオにおける炭素フットプリント調査~』