<概要>
マグロは日本では寿司などハレの日の食べ物として広く親しまれている。その一方で、全国津々浦々で24時間コンビニエンスストアに行けばマグロの寿司が安価に購入できるという側面もある。ここには本来は高額のはずのものが不自然に安く流通できるというカラクリによって顧客へのアピールが成されていると考えられる。しかし、その安価に提供できるマグロというのは単なる企業努力で行われているわけではない。安い値段表示の裏側を見てみると、極めて劣悪な労働環境で強制的に働かされる人びとの犠牲によってその安さが実現されていることが見えてくる。
例えば、世界の遠洋マグロ漁に出る漁船で働く船員のほとんどはインドネシア人の移住労働者船員である。その多くは漁場に入ると連日13~15時間の労働が続き、水や食料は十分に供給されず、船長や管理監督者から心身への暴力を振るわれ、その上給与の支払いさえも適切にされないという事態がしばしば起きているという。
実際のケースで見てみると、台湾船籍の遠洋マグロ漁船銪富(You Fu)号では船員たちは恒常的に暴言・暴力にさらされ、食糧や水も不足し、挙句の果てに中には乗船していた15ヶ月の間給与が全く支払われていない者もいたが、そのすべては航海を終えて初めて世界が知ることとなったのだった。その間に銪富号から水揚げされた魚は合法的に獲られた魚として流通し、その一部は日本のスーパーマーケットで販売されるネギトロなどにも加工された可能性が否定できない。
また、韓国船籍の船では過剰に長い遠洋航海を続けるケースがみられる。東遠(Dongwon)208号のケースでは約30ヶ月帰港しないまま漁を続けていることが判明している。しかも、一度漁に入れば過剰な連勤が続き、優に過労死ラインを超える労働環境で逃げ場もなく労働者が働いている可能性が明らかになっている。ここでも、船員の大多数はインドネシア人の移住労働者である。
遠洋マグロ漁は船の確保、船員の雇用、燃料、漁具の手配や撒き餌などの消耗品の調達など多額の初期投資が必要になる産業である。この下支えをしているのが金融という仕事であり、上記二件のケースでも日本の金融機関が金融サービスを提供しているサプライチェーンの上で人権侵害と言って差し支えない問題が確認されている。台湾における捜査記録から銪富号と取引関係が確認されている豊群水産股份有限公司(Fong Chun Formosa/FCF)社には日本の子会社があり、同社は三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行が取引銀行として明示している。さらに、東遠208号のケースでは傘下にある米Starkist社に対して三井住友銀行が9000万米ドルの融資を実行していることなども明らかになっている。
この状況を今後未然に防ぐためにはすべての船員が問題の早期通報や民主的に選ばれた代表が労働者を代弁することのできる労働組合へのアクセスを保障することなどが極めて重要な前提条件となる。日本の金融機関各社は各行の定める人権方針の運用を強化し、以下の点に配慮した水産業・食品産業への投融資の見直しをするべきである:
・結社の自由を保障する一環として遠洋船に従事する労働者すべてに毎日一定時間以上のWiFiアクセスを保障すること
・WiFi通信設備のある船において外国籍船員だけがWiFiアクセスを制限されるケースをパワハラや差別的雇用慣習の一種と定め、問題の予防に努めること
問題船の航路分析の一例(詳細は本文参照)

*トップ画像提供:台湾人権促進会(TAHR)