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世界は度重なる気象災害にようやく目を覚まし、さまざまな気候変動対策に乗り出し始めている。その中でも特に電気自動車が(EV)が世界的に注目を浴びている。欧州や一部新興国ではすでにガソリン・ディーゼル車の販売規制が法制化されている。
一方、日本では電気自動車の普及にはまだ政策が十分に及んでいないものの、特に民間レベルで自然エネルギーによる発電需要が拡大しており、2018年時点ですでに17.4%が自然エネルギーによる発電となっている。もちろんこれは差し迫ったさらなる気候危機を予防するために十分な取り組み状況ではないが、年々これらの取り組みが進んでいることは多くの市民から歓迎されている。
これら二つの気候変動対策に共通して必要となる技術がリチウムイオン電池であり、とりわけ近年の技術革新によって一般流通し始めたニッケル(混合ニッケル)正極材を用いたリチウムイオン電池である。
そしてもう一つ極めて需要が高まると見込まれているのが銅である。銅はどこにでも使われている電気ケーブルなどに利用されている安価で手に入りやすい鉱物の一つであるが、世界中で電気自動車などの交通インフラを整えようとすると膨大な量の銅が新たに必要になるといわれている。
例えば世界銀行の2020年発行の報告書「Minerals for Climate Action 」では2050年までに最低でも2900万トンの銅供給量の増加がなければIPCCによる「2℃上昇シナリオ」を実現させるための低炭素テクノロジーの需要が満たせないと試算している。つまり、現在の銅供給に加えて平均して年間約137.8万トンの増産がなければ達成されない。現在世界最大規模の銅鉱山はチリにあるエスコンディーダ鉱山である。ここでは年間140万トンの銅が算出されている。これは極めて大規模な鉱山であり、これ以外の鉱山では年間生産量30万トンでも一般的には大規模なものといえる。いずれにせよ、世界銀行の試算した量の銅供給を実現するのであればエスコンディーダ級の鉱山を新たに開発するか、あるいは大規模な鉱山開発を複数行わなければならない。
さらに、現在採掘されている銅鉱山も順次鉱山寿命を向かえ、新たに十分な銅を産出するのは困難になる。これら閉山分を補填するための新規鉱山開発も同時に実現していかなければならない。
ニッケルについても同様である。ただし、こちらは2050年までに220万トン以上の増産が必要であると試算されている。これは2018年生産量と比して新たに80%の増産が必要であることを意味する。鉱山開発に要する年数を考えるならばニッケルは少なくても2018年に比して生産量を倍増させるほどの増産が必要なのである。
さらに、同報告書では鉱物リサイクル率の改善を行ったとしても必要な増産量を23%しか減らせないとしている。すなわちどんなに楽観視しても現在の1.5倍のニッケルを供給しなければならない。
こうした鉱物需要は鉱山開発に向けて極めて大きな経済的圧力をかけることとなっている。向こう30年間採掘できる銅やニッケル鉱山、あるいはその関連産業や利権を確保することは確度の高いリターンが期待できる投資であり、関連各社はいつになく積極的に開発を促進しようとする動きが見られる。それは残念ながら開発にあたっての民主的なプロセスや環境面でのリスクを軽視する傾向として現れつつある。
本報告では銅・ニッケル双方の新規鉱山・鉱区開発にかかわる日本企業の事例を紹介し、関連企業やプロジェクトに投融資をする銀行へ警鐘を鳴らし、デューディリジェンスの強化を求めるものである。
<本報告で求めること>
・ケブラダ・ブランカ鉱山及びその第二フェーズ拡張事業に対してプロジェクトファイナンスを実施している金融機関は赤道原則に照らし合わせて環境・人権に関するインパクトを適切にモニタリングし、十分な配慮・補償・防止策がとられていない場合は融資撤回を含めた対策を講じること
・住友金属鉱山リオツバ鉱山鉱区拡張にあたって追加のプロジェクトファイナンスを求められた際に金融機関各社はIFCパフォーマンススタンダードに準じてサプライヤが重大な環境への影響及ぼしていないことを確認し、それが十分に確認できない場合は融資を見送ること
・本報告書でのべる前例に基づき、住友金属鉱山をはじめとした鉱業セクターを「ハイリスク」セクターと定め、今後想定されるインドネシア・ポマラ鉱山併設精錬所建設事業などの融資判断に際し十分なデューディリジェンスを行なうこと
・その他既存の住友金属鉱山社に対するプロジェクトファイナンスに参画している金融機関はプロジェクト自体の環境・人権配慮状況を確認するとともにIFCパフォーマンススタンダードに準じてサプライヤが重大な環境への影響及ぼしていないことをモニタリングを通して確認し、問題が確認された際には適切なエンゲージメントや融資撤回を行なうこと
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The World is finally awakening to the climate crisis that environmentalists have long warned. All of a sudden the whole world is finding hope in renewable energy and electric Vehicles. It is not too far from today that vehicles with internal combustion engines (i.e. cars that run on gas) will be taken off the market. What is needed to accomplish this bold change, however, is not always accounted for, and that is the need for basic metals like copper and rare/minor metals such as lithium, cobalt and nickel. All of these minerals will be needed in massive amounts if we are to transition to a low-carbon society anytime soon. According to a World Bank study 2020 titled "Minerals for Climate Action", the World will be needing at least 29 million tons of copper by 2050 to achieve IPCC's "Two Degrees Scenario" for climate change. This means in addition to what we are already producing, we will need to produce 1.378 million tons of copper every year. Currently, the World's top copper producing mine is in Chile and produces 1.4 million tons annually. This mine is massive that it eclipses any other large scale copper mines, but most other large scale mines have an annual production capacity of 300,000 tons. This mean we will need to be developing one monstrously large mine, or multiple large scale mines to cover for the increased demand. In addition to this, many of the currently operating mines will gradually have to halt production, and increase demand pressure on mines to come. The same story goes true for nickel as well. With nickel, it must be that 2.2 million tons are added annualy to the current production. Since the current production is roughly 2.3 million tons per year, we will need to nearly double the production of nickel. The same report also notes that even if recycling rates were improved to 100% (which is highly unlikely), it will only reduce demand for new minerals by by 23%. Thus, over a 50% increase in production is inevitable. This situation adds massive pressure onto mining companies and communities impacted by mining. Nickel mines that can produce for the next 30 years is a sure bet with almost assured returns. A rush for production is fueled not only by environmental aspirations but also from purely economic modes of thinking. Unfortunately this has resulted in weaker due diligence in many locations throughout the world. This report seeks to understand the situations taking place in two mines both producing minerals needed for a low carbon transition, highlights its due diligence weaknesses, and sounds an alarm against financial institutions to strengthen their monitoring on mining projects and to strengthen overall due diligence on mining sectors.