インドネシア・チレボン石炭火力発電所1号機の適切な早期停止は実現するか?

ブリーフィングペーパー:
エネルギー移行メカニズム(ETM)の第一号活用案件決定を巡る課題


※レポート全文のダウンロードはこちらから




<要約>

2022年11月14日、アジア開発銀行(ADB。浅川雅嗣総裁)、インドネシア投資公社(INA。リダ・ウィラクスマCEO)、インドネシア国有電力会社(PLN。ダルワマン・プラソジョ社長)、及びチレボン・エレクトリック・パワー社(CEP。竹内久博社長)との間で覚書が締結され、チレボン石炭火力発電所1号機(チレボン1号機)の早期廃止に向け、ADBが主導するエネルギー移行メカニズム(ETM)を活用して相互協力を進めていくことが発表された(註1)。

ADBはすでに2021年から関連する技術協力プロジェクト(TA/註2)を開始し、2021年9月には、インドネシア、フィリピン、ベトナムにおけるETMを活用した石炭火力発電所の早期廃止に関する報告書を作成していた(註3)。しかし同報告書では、ETMを活用した早期廃止支援の案件候補が複数挙げられていたものの、その中にチレボン1号機は含まれていなかった。

チレボン1号機が早期廃止の案件候補となっていたこと、またETMを活用する第一号案件になることが市民の知るところとなったのは、インドネシアが議長国を務めたG20首脳会議に合わせて上記の覚書が締結された時(2022年11月14日)が初めてであり、市民社会にとっては予想外の展開であった。

開発途上国における石炭火力発電所の適切な早期閉鎖を進めていくために、今後、ETMはどのように運営されるべきか。本ペーパーでは、ETM第一号活用案件となったチレボン1号機の選定について検証し、以下の課題・提言を提起する。

市民社会に対する透明性、情報公開、参加機会の確保

第三者を排除した閉鎖的なプロセスによって、ETMの活用が実効性のない形で、つまり、失敗に終わってしまう可能性があることに、関係者、特にADBなどETMの資金提供者は留意すべきである。過度な「商業上の秘密」への配慮は、限られた情報下での誤った判断につながり、適正な資金運用や事業実施を妨げる可能性がある。また、石炭火力発電所の早期閉鎖への支援を含む、気候資金が依然として大幅に不足している中、限られた公的資金がどのように効果的に使われるか、市民社会、とりわけ気候資金の受取国側の市民は大きな関心を寄せている。市民社会の知る権利や意味ある参加の機会が確保されないことで、限られた公的資金の使途・運用を市民が監視できない状況となり、ひいてはETM自体の信用をも損なうことが懸念される。チレボン1号機以外の案件においてETMがより実効性のある形で活用されるためにも、関係者間での協議や交渉のより早期の段階で、市民社会が情報を入手でき、意見や情報を提供できるよう、つまり、意思決定プロセスに意味ある参加ができるよう、透明性のあるプロセスを確保すべきである。

限られた公的資金による企業支援とモラルハザードの回避

チレボン1号機の座礁資産化に伴い発生するコストをどのように分担するかについては、民間企業が本来とるべき責任を公的資金が負うことにならないか、注視が必要である。CEPの出資企業は、日韓の企業が80%を占めている。気候資金が依然として大幅に不足している中、ETMの限られた公的資金が大手民間企業の支援に使われることは回避すべきである。また、チレボン1号機の早期廃止に係るCEPへの公的資金による補填が、現在も石炭セクターへの投融資を継続している民間企業のモラルハザードを引き起こす可能性は軽視されるべきではない。ETMを活用することで将来的に座礁資産に対する責任を逃れる、あるいは回避することが可能であるという誤ったメッセージを民間企業に送ることになる。実際、現在試運転中のチレボン2号機の事業者であるチレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)は、気候危機の深刻な影響を目の当たりにしていたとしても、座礁資産のリスクを考慮することなく、2号機の稼働を開始させるであろう。インドネシア政府、ADB、また事業者は、チレボン1号機の稼働を継続することが気候変動の悪化を招くということを認めたが故に、ETMを活用してチレボン1号機の早期廃止を進めることに合意したはずである。そうであるなら、気候変動の悪化を招くことになるチレボン2号機の稼働開始も行わない方向に舵を切るべきである。

化石燃料利用の延命の回避

チレボン1号機の早期廃止におけるETMの活用については、今後、具体的なスキームや方策に関する話し合いが進められていくことになっており、同発電所が「再利用」される方向性か否かも不明である。しかし、チレボン・エレクトリック・パワー社(CEP)の筆頭株主である丸紅が上述の覚書締結日に発表したニュースリリースの中で、「今後4社で融資条件や代替電源の手配を含めた事業期間短縮による影響緩和策等、諸条件に合意できた場合、チレボン1はETMを採用した石炭火力発電所の事業期間短縮を図る第一号案件となる見込み」と、「代替電源の手配を含めた事業期間短縮による影響緩和策」に言及していることから、CEPが代替電源としてバイオマスやアンモニア、水素の混焼を視野に入れている可能性は否めない。2050年までにネットゼロを達成するためには、世界全体で2040年までに発電セクターのネットゼロを達成することが必須であると言われている。チレボン1号機にバイオマス、アンモニア、水素の混焼技術を用いて化石燃料利用の延命を図ることは、パリ協定の1.5度目標と整合しないことは明らかである。世界の気候変動対策と逆行するこうした混焼技術がETMを通じて支援されることは回避されるべきである。

チレボン1号機による既存の環境社会影響への対処とADBセーフガード政策の遵守

チレボン1号機の建設・稼働によって生計手段に甚大な被害を受けてきた小規模漁業者や塩田農家は、現在も事業以前の生活水準を回復できておらず、「影響住民の生計手段を少なくともプロジェクト実施前の水準に回復、あるいは、それ以上に改善する」というADBセーフガード政策の要件を明らかに遵守できていない。チレボン1号機を早期廃止するにあたっては、現地で被害を受けた住民の生計手段の回復という観点からも、海洋環境等のリハビリや修復についても視野に入れた是正措置が検討されるべきである。セーフガード政策のパラ47では、「ADBは、セーフガード政策を遵守しないプロジェクトには融資しない。」と規定しているため、顧客となるCEPがセーフガード政策で規定する要件を満たせない場合、ADBは支援を行うことができない。仮にセーフガード政策を遵守していない状況でADBが支援を行った場合は、ADB自身がセーフガード政策に違反することになる。

註1)以下、参照
https://www.adb.org/news/adb-indonesia-partners-sign-landmark-mou-early-retirement-plan-first-coal-power-plant-etm
https://web.pln.co.id/media/siaran-pers/2022/11/kolaborasi-pln-adb-dan-ipp-siapkan-pendanaan-pensiun-dini-pltu-swasta-melalui-mekanisme-etm
https://www.marubeni.com/jp/news/2022/release/00089.html

註2)
https://www.adb.org/projects/55024-001/main#project-pds

註3)
https://www.adb.org/sites/default/files/project-documents/55024/55024-001-tacr-en.pdf

(写真提供:インドネシア環境フォーラム・西ジャワ)

Thank you for submitting

Your message has succesfully been placed

×